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福岡高等裁判所 昭和25年(う)2154号 判決 1951年5月24日

控訴人 被告人 金子来

検察官 宮井親造関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金千円に処する。

右罰金を完納することが出来ないときは金二百円を一日に換算した期間労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は記録中に編綴されてゐる検察官水之江国義提出の控訴趣意書記載の通りであるからここに之を引用する。

同控訴趣意について。

外国人登録令第十三条第四条第一項及昭和二十二年勅令第二〇七号附則第二項第三項所定の登録不申請罪については反対の意見もあるが法定の登録申請期間の経過後も不申請なる不作為の状態の継続するかぎり犯罪行為が継続する所謂継続犯の一種であると解するのが正当である。

蓋し外国人登録制度は一定の期間内に登録せねば其制度の目的を達し得ないものでなく登録申請期間経過後の登録も此制度の登録の目的に適ふものであるから登録申請期間の経過は登録申請義務に何等の消長を来さず申請義務者は申請期間経過後も期間内と同様登録の申請をすべきであり、又申請することも出来るものといふべく申請期間内に登録の申請をしない場合は期間経過後其の登録の申請をするまでは義務違反の状態が継続すると断ずべきである。そして登録申請について一定の申請期間を設けたのは所定の登録申請期間内に登録を申請すれば、義務違反に対する制裁が免除される所謂免責期間を定めたものと解する。

又昭和二十四年政令第三八一号(以下新令と称する)の附則第七項は「外国人登録令附則第三項に於て準用するこの政令改正前の第十二条第二号に掲げる罪を犯した者の処罰については、なお従前の例による」とする旨規定してゐるので昭和二十二年勅令第二〇七号(以下旧令と称する)施行当時現に本邦に在住する外国人がその勅令施行の日から三十日以内に所定の登録申請をしなかつた罪については一見其の期間の経過と同時に犯罪行為は終了するので継続犯でないかのやうな観を呈するが右の規定は必ずしも其の見解に立つものでなく旧令附則所定の登録申請期間内登録の申請をしなかつたものが其の申請期間経過後で且つ新令施行前(即旧令施行時)に、登録の申請をした場合に関する規定と解すべきであるから右の規定の存することは法律が反対の見解に立脚してゐるものと見ることは出来ない。

以上の通りであるから登録不申請罪の犯罪行為は登録申請期間経過後も登録申請があるまでは継続した一個の行為と目すべきであり、其の間に適用すべき刑罰法規の改正があつたときは其の新らしいものを適用すべきである。

そして本件公訴事実は被告人は朝鮮人で外国人登録令施行当時現に日本に居住して居たのであるが、外国人登録令施行の日から同令所定の三十日以内に居住地である福岡県甘木町長になすべき外国人登録の申請を起訴(昭和二十五年六月三日)のときまでしなかつたといふのであることは起訴状の記載、原審公判廷の検察官の立証趣旨の陳述等で明であるが原審は右の起訴に対して被告人は外国人登録令施行の日から昭和二十四年二月頃まで福岡県甘木町井上友吉方に居住していたが外国人登録令施行の日から三十日以内に居住地の町長である甘木町長に外国人登録の申請をしなかつた事実を認定して昭和二十二年勅令第二〇七号外国人登録令第十二条第二号、第四条第一項、附則第二項第三項、昭和二十四年政令第三八一号外国人登録令附則第七項を適用して処断してゐるのであるが原審に於ては被告人が所定の登録申請期間経過後其の登録申請をしたことを認めてゐないし又被告人の検察事務官に対する供述調書、又民事局第六課長の佐賀地方検察庁宛回答書等、記録に徴しても其の後も登録申請をしないことを窺い得るから原審は登録申請期間経過後被告人に於て登録の申請をしないで現在に及ぶ場合にも登録申請期間の徒過と共に昭和二十二年勅令第二〇七号附則第二項第三項の犯罪は終了するものとの見解に立つものとみなければならない。

しかし外国人登録令は昭和二十四年政令第三八一号で其の罰則も改正され、旧令に比し新令第十三条は其の法定刑を重くし、一年以下の懲役刑若くは禁錮又は一万円以下の罰金に処する旨規定し其改正政令は昭和二十五年二月十六日から施行せられたのであるから登録令不申請罪を継続犯と解するを正当とすること前述のやうである以上新法を適用処断すべきに拘らず原審が旧法を以て処断してゐるのは、法令の適用を誤り判決に影響を及ぼすこと明であるといわねばならない。

従つて本件論旨は其の理由があり原判決は破棄を免れない。

而して本件は当裁判所に於て直ちに裁判するに適するものと認めるので次の通り自判する。

本件罪となるべき事実に法律を適用すると、被告人の判示所為は外国人登録令(昭和二十二年勅令第二〇七号)附則第三項、第二項、昭和二十四年政令第三八一号で改正後の外国人登録令第十三条、罰金等臨時措置法第二条に該当するから所定刑中罰金刑を選択し其の金額の範囲内で被告人を主文第二項の刑に処し刑法第十八条によつて罰金不完納のときの換刑期間を主文第三項の通り定める。

よつて刑事訴訟法第三九七条第四〇〇条但書に則つて主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 石橋鞆次郎 裁判官 藤井亮 裁判官 池田惟一)

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